プレゼンに必要なインパクトその1「沈黙と注目」

◆「最上階にある大会議室、最初に来るのは誰だ」、そんな想像を強めながら緊張を解した。そして、知っている人たちの顔を思い浮かべプレゼンのイメージをし始めた時だった。

「今日は20名くらいになります。ちょっと緊張しますが宜しくお願い致します」

最初に入ってきたのは、役員さんではなかった。プロジェクトメンバーの一人ではあるが今回のプレゼンには参加しない。下っ端らしくプレゼンの準備をしに来たようだ。しかし、今日のプレゼン次第で最終決定が下されるのだからちょっと緊張するのも解る。

俺が知っているのは20名の内3名。社長、専務、そしてプロジェクト担当の部長だ。残り17名に関しては、上場前からの役員と上場後に加わった役員の関係が好ましくないというくらいの情報しか得ていない。それに今回のプロジェクトに関する重要な役員会議はこれで3回目だってことだ。

俺の前に大先生と言われる人たちが頑張ったようだが次々と降ろされた。担当の部長曰く、「本質的な問題に向き合うことが出来ず足踏みせざるを得ない状況だった」とのことで、どちらかと言うとこれから集まる役員連中に問題があったような言い方をしていた。そして、大先生とは言えないやんちゃな俺にチャンスが巡ってきた。「大先生と同じ運命は辿りたくない」そんな気持ちが俺のプライドを刺激し人並以上の挑戦心を燃やした。

◆元々、知人と親しかった担当部長からのお願いでプランを練り社長にプレゼンをした。運が良かったのか、社長のお気に入りの人間となれた。それもあって前任の大先生が降ろされた訳だが、大先生は救われたはずだ。と言うのもプロジェクトの難易度が高過ぎる。「無謀」と言う言葉が相応しいくらいに・・・。

結局、担当部長が言った「本質的な問題に向き合うことが出来ず足踏みせざるを得ない状況だった」を解くと「難し過ぎて本質的な問題にすら気付けなかった」と言える。

もちろん、俺も例外ではなかった。ギリシャ神話に出てくるクノッソスの迷宮にでも閉じ込められたような錯覚に陥り幾度も考えることを止めた。しかし、一度入った迷宮は俺を虜にするくらいの魅力も秘めていた。それは、不可能と言われれば言われるほど熱くなる反骨精神の表れであったかも知れないが・・・。

毎晩眠れない日々を過ごした。そして、基本プランが完成した時にはどれほど寿命が縮まったのか知人の医師に確認したい欲求に駆られた。それくらい情報を漁り、情報を整理し、アイデアを絞り出し、戦略を練り、検証を重ねた。この時感じたことがある。「本気で探求すると命と引き換えになる危険性がある」と。

そんな危険を冒した甲斐あって社長のお気に入りとなり、プレゼンの機会を与えられた。午後1時半開始、あと20分ほどで運命を変える劇的な瞬間がやってくる。投資額100億円は、運命を変えると言っても可笑しくない規模だ。そう思うと緊張を噛み殺すような野心が芽生えてくる。

◆腹を満たしたからか、皆、穏やかな顔つきで入って来た。ほとんどが初対面だったが部長の言っていた上場前からか上場後かの違いが解り易い顔ぶれだった。全員が揃った時は、緊張するどころか懐かしい快感に包まれていた。それは、音楽をやっていた時の快感とそっくりだった。演奏とプレゼンでは根本的に違うが俺と言う人間を感じてもらう場面であることに変わりないと勝手に思いを巡らしていた。

部長が前に立ち一礼しプロジェクトの経過を説明した。そして、俺の紹介へと移る。表情は様々だった。ただ「お前は何者だ」的視線を俺は全身で受け止めていた。前任の大先生に比べれば若過ぎるし聞いたこともない名だ。懐疑的な表情を見ると敵のように思えることもあるが最初から想定していたレベルに止まったので俺の心が乱れることは無かった。

社長に説明した内容と同じものを噛み砕くような形で説明した。最初から臨機応変に行こうと決めていたので参加者一人一人を見ながら喋れるほどの余裕があった。余裕があった分、目に付く役員さんもいた。どんな人かと言うと他人事のように聞いている非協力的な人たちだ。そのほとんどが上場後だな、と察することができた。プライドの高い人ほど俺のような存在が許せないのかも知れないと思えるほど負のパワーを感じた。

計画の概略説明を終え俺は勝負に出た。「このままだと失敗しますよ!」と。その瞬間、皆の目が丸くなり、時間が止まった。まさに沈黙だった。皆の言葉は表情から読み取れることができた。それは、俺に対し挑戦的な「何言ってんだ!」と好意的な「よ~言ったな!」の二つに分かれる。しかも、俺はスクリーンにでかでかと苦言として映したので尚更刺激的だったに違いない。

そして、沈黙は注目へと変わった。これが俺の狙いだったし、大先生との大きな違いだった。さらに本質的な問題を提起するにはインパクト「沈黙と注目」から本気のプレゼンが始まると考えていた。また、そこに俺と言う人間を感じて欲しかった。

危機意識の無い連中に対し、無難に終わらせたのでは前任の大先生と同じ道を辿ると思えた。足踏みが嫌いな俺は、一撃を食らわし本質的な問題をぶちまけようと心に決めていた。「やるからには、命懸けのプロジェクトになる」可能性を探り考え抜いた末に辿り着いた答えだった。

◆熱い視線を感じた。失敗と言う言葉を誰ひとり聞き逃さなかった。俺は、物凄い圧力を押し返すように失敗する理由を語った。すでに本気のプレゼンが始まっている。俺だけじゃない、聞き手も本気モードに達している。

中には相槌を打つ人も居た。次第にその数が増えていく、本質的な問題に気づきながらも仕舞い込んでいたような顔つきで何か俺に訴えかけているようだった。上場後の人たちは、それなりに賢そうだ、そんな気持ちにさせられた瞬間だった。

次に「どう納めるんだ?」と言った無声を感じた。一番奥で立ったまま聞いている部長のドキドキ感が他役員の頭上を越えて俺まで届いた。血便が止まらないと零していた部長の身体が気になった。そして、解決策を打ち出した。

俺が俺じゃなくなる。そんな感じをひしひしと感じた。戸惑いの欠片も無い、考え抜いた解決策(戦略)が俺の口からほとばしる。何者かが俺に乗り移っているのかと思えるくらいの熱い語り口調となっていた。会場にいた20名の脳みそがフル稼働しているようだ。この時、俺に対する評価が始まっていると実感できた。

解決策を語るほどに責任の重さを感じた。ずっしりとした重圧に耐えられる精神力・・・。それが俺に魔法を掛けていた。「怖気づくな、お前なら出来る」。俺は自分にそんな言葉を浴びせながらプレゼンの資料を作成していた。ここに来て自己暗示の凄さを知った。

「お前は何者だ」的目つきが最初と全く違う。失礼な言葉を吐き、生意気な戦略を提示したのだから俺に対する興味が何倍にもなっているはずだ。しかし、「俺が何者であるのか?」だけでなく「誰がやるのか?」まで語らないと今回のプレゼンの意味を成さない。そう思っていたのは俺より最終決済者である社長だった。

プレゼンを終えた時、拍手の音が聞こえた。社長一人の拍手はあまりにも滑稽だったが逆らう人は居なかった。徐々に拍手が連動するような形で不思議な輪が広がり、戦いの場だった会議室は、やんわりとした空間と化していた。そして、サッと去る人間も居れば俺に近寄ってくる人間も居た。

◆数日後、部長から本契約の話がしたいと連絡があった。ワンプロジェクト2億円、俺の記録を塗り替える額だった。

正式契約の時、「あなたの勇気に感銘した」と言われた。有難い言葉だったが、「これからが本番だ」と部長に活を入れたかった。

それは「勇気」と言う有り触れた言葉で片付けられるものではなかった。誰よりも調べ考え抜いた。その自負心が俺を支えていたのだから。

何年俺の寿命が縮まったのか、今でも気になっている。

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◆本日のまとめ
・プレゼンには、勝負の言葉「インパクト」が要る。
・プレゼンには、敵が居ることを忘れてはならない。
・プレゼンには、どれほどの命を費やしたかが問われる。

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「沈黙と注目」、いかがでしたでしょうか? 何事も無難に、と言う考え方もありますが、大きなチャンスをゲットするには、勝負する心構えが必要だと思うのです。そこで誰もが感じるのが恐怖です。「恐怖とはトコトン行かないと消えない幻想である」と言うことを忘れないで下さい。トコトン行けば、自負心が支えてくれます。「時間=命」を燃やしていると思えば、如何様にでも自分を強い存在にしてくれるってことです。


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